元銀行員が考える商工中金の不正融資事件

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組織×不正×金融

2017年は組織的な不正が話題

こんにちは、今年も年末がやってきました。

今年を振り返ると大企業の組織的な不正に何かと注目が集まった1年間であったと思います。

東洋ゴム、三井不動産、日産自動車、神戸製鋼、三菱マテリアル、東レなど関連会社も含まれますが、日本を代表する大企業の不正発覚は日本企業全体の信用問題にも関わるものとして大きく取り上げられましたね。

その様な中、金融業界で発覚した不正に注目してみると商工中金こと『商工組合中央金庫』『危機対応融資』についての不正問題が大きな話題となりました。

残念ですが金融機関では毎年の様に不正事件が発覚、特に商工中金の不正融資は・・・

◎組織内で改ざんが横行してしまった点
◎国の制度融資を悪用して血税を搾取してしまった点
◎制度融資で民業を圧迫してしまった点

問題は深刻と言えます。

では、なぜ不正融資が横行してしまったのか?

簡単ではありますが考えてみます。

不正の根源
商工中金の『危機対応融資』とは何か?

商工中金の商品の1つに『危機対応融資』があります。

『危機対応融資』は、突発的な自然災害などにより業績が悪化した中小企業の資金繰りを安定させるための制度融資で、利子の一部を国が負担する形で低利融資を実現する商工中金独自の商品です。

『貸し剥がし』という言葉は有名ですよね?

本当に借りたい時、銀行はなかなか貸してくれないと言われるのは間違いではなく、民間の金融機関の場合、危機的な状況に置かれた企業に厳しい対応を取る可能性が否めません。

追加融資の相談をしても『減額・利上・謝絶』など前向きに取り合ってくれないことも考えられ、中小企業の場合、資金がショートして死活問題に発展するケースもあります。

一方、半官半民とも言える商工中金は中小企業の金融の円滑化を図ることを業の目的としています。

中でも『危機対応融資』は、融資基準を満たせば利子の一部が国から支給、融資が焦げ付いても原則損失の80%を国が補償してくれるので商工中金側にリスクが少ない商品であり『融資基準』に合致すれば、民間の金融機関で借入を断られた事業者でも融資を受けることができるかもしれません。

このように、商工中金は民間の金融機関では難しい案件に対応する、言わば中小企業のセーフティネット的な役割を担うことにその意義があると言えそうです。

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不正の理由は?
ノルマ?民営化?収益基盤?

①:与えてはいけないノルマ

セーフティネットの役割を持つ商工中金の『危機対応融資』

では、なぜ不正融資問題に発展したのか?

各記事の情報を整理すると…

◎支店に『危機対応融資』のノルマを割り当て、融資拡充を図った。
◎ノルマの達成が評価の対象となり、未達成は職員の給料にも影響を与えた。
『危機対応融資』の認定基準が広義であったため、融資基準に合致しない顧客でも、試算表や経営改善計画書などの資料を改ざんすることで融資が可能になっていた。
『危機対応融資』を利用すれば、通常より低利で資金調達が可能であった。
『危機対応融資』本来の需要を超える過大なノルマであった為、融資基準に合致しない事業者に同制度を売り込み、融資残高を伸ばした。

この様な背景に根源がある様で、商工中金の経営陣も過大なノルマが不正を誘発した原因であることを認めました。

ちなみに商工中金の貸出金残高は、不正を発表した平成28年9月末時点で約9.5兆円、うち政府がリスクを肩代わりする不況対策融資の残高は30%を超える3.1兆円に及ぶとのこと。

不正の有無について調査を行ったのはその一部の融資口座に過ぎないので、過去から積み上げた不正融資の実態は闇の中と言えるでしょう。

また、『危機対応融資』と似た制度で『セーフティネット保証制度(5号:業況の悪化している業種) 』があります。

こちらの制度は民間の金融機関で使えるセーフティネット融資ですが、利用条件が限定される同制度の融資実行額にノルマを与える金融機関など聞いたことがありません。

個人的も『危機対応融資』にノルマを与えたこと自体がナンセンスな訳で、不正の根源は経営陣の経営判断にあると考えています。

②:審査の盲点を突いた資料の改ざん

『危機対応融資』と同様に『セーフティネット保証制度 』も利用条件が決められ、制度利用の認定を受けるには試算表などの資料提出が必用です。

私自身もお客さんに提案したことがありますが・・・

資料を改ざんして審査を通そうと考えたことなどなく、同制度の利用条件に合致しなければ、他の商品を提案していました。

しかし、『セーフティネット保証制度 』に関しても担当者が試算表を改ざんすれば、融資基準に合致しない顧客でも制度の利用が可能かも・・・

そもそも、金融機関の融資審査を第三者が検証する機会は限定されます。

また、税務署に提出する『決算書』などと異なり、『試算表』や『経営改善計画書』は任意の書式であることから改ざんは容易に可能です。

まして、審査する金融機関側は粉飾などがないか?

資料の正確性を検証すべき立場であります。

更に『危機対応』というスピード感が求められる融資審査で、時間を掛けて審査するのもナンセンスなわけで・・・

商工中金の発表によると不正の具体的な指示は無かったとしていますが、言わば審査の盲点を突いた不正融資に全職員の2割にあたる職員が関与しているとなると・・・

◎バレない程度の改ざんであれば大丈夫という精神が組織に根付いていたのでは?
◎改ざんすることが組織として暗黙の了解になっていたのでは?
◎経営陣も不正融資の実態を把握していたのでは?

と疑われても仕方ないと思います。

③:組織を狂わせた民営化の潮流

では、不正に手を染めてまでなぜ『危機対応融資』の実績が必用だったのか?

各紙が報じるように『民営化』への抵抗が組織内であったと言えそうですね。

政府系金融改革の一環で商工中金は組織見直しの対象となり、民営化への動きが強まりましたが現在、商工中金の完全民営化は無期限延期となっています。

民営化に反対する経営陣が阻止する材料として『危機対応融資』に注目、同制度の実績を積み上げ『政府系金融機関』としての立場を示すために同制度が利用されたのでしょう。

しかし、民間の金融機関にも『セーフティネット保証制度 』が整備されていますし、大震災などの有事には時限立法措置で危機に対応すれば、民間の金融機関でも十分、商工中金の代役を担えるような気がします。

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④:商工中金の収益基盤にも限界が?

個人的には商工中金の収益基盤も気になりました。

商工中金の収益基盤について着目すると、貸出金利息からの収益が収益全体の60%を占めていることが分かり、同じ土俵とも言える大手地銀の数字と比べて割合が高いと分かります。

金融機関の間では貸出金金利の過当競争が続き、手数料収入など貸出金利息以外の収益源確保が近年のトレンドになっています。

一方、商工中金の場合は半官半民の体質上、収益源を拡げることが難しく、『危機対応融資』を武器に過当競争を戦い、不正融資を誘発させたでは?

と考えると『政府系金融機関』という立場に甘えて経営努力を怠ったと考えざる得ませんね。

【経常収益と貸出金利息(平成29年3月期:連結)】(単位:百万円)

金融機関 経常収益 貸出金利息 ※①
商工中金 195,376 119,142 60.98%
日本政策金融公庫 610,684 253,021 41.43%
コンコルディア・FG 329,476 146,355 44.42%
静岡銀行 249,804 95,298 38.14%
千葉銀行 227,811 106,049 46.55%
めぶきFG 213,284 89,325 41.88%
八十二銀行 209,160 48,331 23.10%
福岡FG 184,190 97,434 52.89%
西日本FH 145,862 85,498 58.61%
スルガ銀行 145,753 121,045 83.04%
広島銀行 138,263 60,995 44.11%
京都銀行 110,406 46,136 41.78%
七十七銀行 106,692 41,308 38.71%
東京スター銀行 71,107 32,482 45.68%

※①=貸出金利息/経常収益×100

不正を防ぐには?
不正のトライアングルで考える

最後に今回の不正は防げたのか?

以前、取り上げた不正のトライアングルをもとに考えてみます。

不正のトライアングルとは不正の発生を動機・機会・正当化の3つの要素で構成されているとする理論で、アメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーが横領犯の裁判記録や聞き取り調査などをもとに導き出した考え方です。

テストのカンニングを不正のトライアングルで考えると・・・

【動機】
どうしてもこの試験で優秀な成績を収めたい。でもこの問題が解けない。
【機会】
斜め前に座っている生徒の答案用紙が覗けそうだ。しかも試験官は巡回していない。
【正当化】
覗ける場所に答案を置くのが悪い。試験官が巡回しないのが悪い。
→カンニングしよう。

といったプロセスで不正のトライアングルが成立します。



この理論を今回のケースにあてはめると同様に、不正のトライアングルが成立します。

【動機】
ノルマを達成できない。ノルマを達成しないと上司から怒られるし給料も減る。
【機会】
資料は簡単に改ざんできるしバレることもない。
【正当化】
高いノルマがいけないんだ。目標を達成している職員はみんな改ざんしている。
→改ざんしよう。

ちなみにこの理論では1つでもトライアングルが欠ければ不正は成立しないとしています。

つまり【正当化】しない道徳律が備わっていれば不正に手を染めることはありませんが・・・

今回の事象は組織的な不正の横行である点が厄介です。

仮に【正当化】しない職員でも、組織全体で通常業務として不正を指示していた場合、不正を不正と言える人間がどれだけいるのか?

と考えると今回の事例は【機会】を無くさなければ防ぐことができなかったとも捉えることができます。

さて、今回の不祥事を受けて商工中金は職員の大量処分を発表しましたが、果たして処分だけで済ませて良い問題でしょうか?

偉そうなことは言えませんが、商工中金は役割の転換期を向かえているのでは?

と思ってしまう私の所見であります。

ブログを読んでいただきありがとうございました!

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